「es[エス]」

2003年3月9日
劇場公開時に、観ておきたがったのだが、知らないうちに終わってしまい、見逃していた「es[エス]」を池袋新文芸座で観た。
因みに同時上映は「ザ・リング」だった。

物語は、1970年代にスタンフォード大学で行なわれた心理学実験「プリズン」に題材を取られたもので、新聞広告で集められた応募者を無作為に「看守」と「囚人」に分け、模擬刑務所で14日間、いくつかのルールに従い、自らの役割を演じる、というもので、その実験過程において明らかになる、「状況の力」とその「状況の力」の持つ大きな力を描写している。

因みにこの映画はドイツ映画である。こういった映画がドイツで製作されたことが非常に興味深い。

先ず、この映画が優れている点は、観客が観察者の立場を演じさせられている点だろう。
つまり我々観客は、この実験の主催者側と同じ立場でこの映画を、つまりこの実験を観察する構造を持っているのだ。ここに、この映画のリアリティが生まれているのだ。

事実、この実験の描写は微に入り細に入りリアリティを感じることが出来る。
このリアリティこそが、「状況の力」により人間はいかようにもなってしまう、というこの映画の根本的なテーマにリアリティを与え、観客に対し居心地の悪さや嫌悪感を与えているのだ。

勿論、この物語は映画であるから、ラストに向け、カタルシスが得られるクライマックスが用意されているが、それとて歯切れの良いものではなく、観客は、普通のその辺に居る人間に対する不信感や、「状況の力」への恐怖を、わたし達の周りでも簡単に「状況の力」が発生する環境が簡単に出来上がってしまう恐怖に捕らわれてしまうのだ。

さて、細かい話に入るが、脚本についてだが、実験の描写の合間に主人公であるタレクとドラの回想シーンが入る構成になっている。この辺が賛否分かれるところだと思うが、わたし的にはちょっとうるさい印象を受けた。勿論構成上ラストに向けての伏線となっているわけだから、脚本上必要だと思うが、物語のスピードを削いでいるような気がする。

キャストについては、主人公のタレクを演じているモーリッツ・ブライプトロイは「ラン・ローラ・ラン」で日本でもおなじみだが、あとは看守ベルスを演じているユストゥス・フォン・ドーナニーが「ワールド・イズ・ノット・イナフ」に出てるくらいで、後はほぼ無名の俳優のようである。
勿論、わたしはドイツ映画はあまり観たことが無いこともあるのだが、無名の俳優を使うことにより、その辺に住んでいる一般の人々が極限状態の「状況の力」により変貌してしまうところのリアリティに恐怖を感じさせることに成功している。

主役のモーリッツ・ブライプトロイは置いておくと、やはり見事にナチスの将校的看守ベルスを演じているユストゥス・フォン・ドーナニーと空軍将校で囚人役のクリスティアン・ベッケルが印象的であるが、全ての囚人役も看守役も存在感があり、良い仕事をしている。

あとは手法として人権を剥奪するシークエンスが良く出来ているな。と感じた。
また、看守ベルスの暴走振りは若干やりすぎの感はあるが、リアリティを破壊する直前の微妙な線を越えずに演じきっている。
特にラストのナイフのシークエンスで自らの行為に驚愕する表情は素晴らしい。

因みに本作はもうDVDになっているようである。関心がある方は是非観ていただきたいと思うのだ。


「es[エス]」
"Das Experiment"
2001年/ドイツ映画/119分/ドルビーデジタル/ビスタサイズ
配給:ギャガ・コミュニケーションズ Gシネマグループ
監督:オリバー・ヒルツェヴィゲル
出演:モーリッツ・ブライプトロイ、クリスティアン・ベッケル、オリバー・ストコフスキー、ユストゥス・フォン・ドーナニー、ティモ・ディールケス、ニッキ・フォン・テンペルホフ、アントアーヌ・モノ、エドガー・ゼルケ、アンドレア・サヴァツキー、マレン・エッゲルト

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tkr

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