「アレックス」
2003年3月5日賛否両論の「アレックス」であるが、はっきり言って傑作だった。
わたしは事実、爽やかな気持ちで劇場を後にすることができたのだ。もしかしたら、清々しい爽快感に自然と笑みがこぼれていたかもしれない。
その反面、「アレックス」の前評判から劇場に向かう足が重かったのは事実である。
さて、先ず考えなければならないのは本編に繰り返し出てくる「時はすべてを破壊する」と言う言葉であろう。
これは勿論真理であるとともに、逆説的に「時は全てを癒す」ということを表現しているのである。
そしてこの「アレックス」の物語は時系列的な正方向で考えると「時はすべてを破壊する」を表現し、負方向(映画で描写された時系列)で考えると「時は全てを癒す」ということを表現しているのだ。
また、英題である"IRREVERSIBLE"は「反+リバース+可能」を表し、「不可逆の」、「元に戻せない」という形容詞なのである。
ミクロ的な視点では「全てを破壊する」時ではあるが、マクロ的にその事象を覗いた場合、時は「全てを癒す」ことになるのだ。(ここでは、時が全てを解決する。という考え方より高次元な観点で考えています。)
ですから、人類が感じる悲喜など、時と言う存在の前では、全くもって取るにたらない瑣末な物事なのだよ。
そして考えなければならないのは、レイプされる女性の名前がアレックスであること。
そして、「2001年宇宙の旅」の「究極のトリップ」版のポスターとベッドと赤ん坊。
ここから、この映画がスタンリー・キューブリックの影響下にあることが見て取れ、アレックスという名前は「時計じかけのオレンジ」のアレックスから取られていることは容易に想像できる。
また、この映画「アレックス」ではベートーベンやマーラーの交響曲が使われ、キューブリックへのオマージュ的なカットがいくつか登場することも見逃せない。
そう考えるとこの映画の主題の幾つかが見えてくるのではないだろうか。
その主題のひとつは、キューブリック映画の主題のひとつでもある「本能から逃れられない人類の悲哀」なのである。
例えば「2001年宇宙の旅」は勿論「超人」の誕生を描いているのであるが、「食欲」から脱却できない人類を描き、「時計じかけのオレンジ」は、「暴力」という本能を描いている。
そしてこの「アレックス」は「暴力とセックス」という人類の本能を描いているのである。
そこで、興味深いのは、地下鉄の中でのセックス談義である。勿論この映画の全編はセックスにみちているのだが。
特にその地下鉄内の会話でアレックスは、「相手をエクスタシーに導くのは、相手のことを考えるのではなく、自らの欲望だけを考え没頭することだ」と元恋人ピエールに語る。
ということは、自らの欲望に突っ走っているテニアの暴力的なレイプにより、アレックスはエクスタシーを感じていた。という解釈も出来るのだ。
勿論反発はあると思いますが、冷静に考えてみて、脚本がそうなっている以上、こういった解釈もあることを監督は望んでいるはずです。
更に、復讐にはやるマルキュスは、あっさり腕を折られ、マルキュスの復讐を諌めていたピエールが結果的にアレックスの仇を取る、という構図は、暴力とセックスとの、エクスタシーと死との違いはありますが、アレックスが語っていた、「相手をエクスタシー(死)に導くのは、相手のことを考えるのではなく、自らの欲望だけを考え没頭することだ」を体現しているのに他なりません。
このモラルの人ピエールの豹変振りが、「2001年宇宙の旅」的な「超人」の誕生をも表しているのでしょう。
そして、冒頭の裸のじいさん達の視点は勿論、神の或いは神の使い的な視点を持ってますね。
シェークスピアかなんかの、神や悪魔が冒頭に舞台で少し語り、なんだか下界が騒がしいようだ、という感じで人間達の物語に入っていくような感じですよね。
さて、細かい話になりますが、脚本がよく出来てますね。この映画。
我々は、時系列的に結果から伏線を見ていく訳ですが、全てのシークエンスがレイプに繋がっていますね。
地下鉄のセックス談義や、恋人達のベッドでの会話、最近読んでいる本の内容、目覚める寸前に見た夢・・・・
キャスト的には、やっぱモニカ・ベルッチ頑張りましたね。
ヴァンサン・カッセルはダメな人間を好演してます。
なんと言っても、美味しいのはアルベール・デュポンテルでしょう。冒頭の消火器のシークエンスは映画史に残る強烈な印象を与えています。
撮影は16ミリで撮ったらしいですが、ごまかしやすいスタイルでした。
1シーン1カット(勿論ヒッチコック的に誤魔化しつつ数カット使ってますがね。)の形式はやっぱ面白いですね。相米慎二の映画なんかを見ると、ホント編集って本当に必要あるのかな、ごまかしじゃないのかって思っちゃいますよね。
この映画のもうひとつのそして最大のテーマは「希望」でしょうね。
いやあ、本当に良い映画を観たね。
「アレックス」
"IRREVERSIBLE"
2002年/フランス映画/シネマスコープ/ドルビーSRD/上映時間:98分/日本語字幕:松浦美奈/提供:コムストック、レントラックジャパン/配給:コムストック
監督・脚本・撮影・編集:ギャスパー・ノエ
出演:モニカ・ベルッチ、ヴァンサン・カッセル、アルバート・デュポンテル、ジョー・プレスティア、フィリップ・ナオン
わたしは事実、爽やかな気持ちで劇場を後にすることができたのだ。もしかしたら、清々しい爽快感に自然と笑みがこぼれていたかもしれない。
その反面、「アレックス」の前評判から劇場に向かう足が重かったのは事実である。
さて、先ず考えなければならないのは本編に繰り返し出てくる「時はすべてを破壊する」と言う言葉であろう。
これは勿論真理であるとともに、逆説的に「時は全てを癒す」ということを表現しているのである。
そしてこの「アレックス」の物語は時系列的な正方向で考えると「時はすべてを破壊する」を表現し、負方向(映画で描写された時系列)で考えると「時は全てを癒す」ということを表現しているのだ。
また、英題である"IRREVERSIBLE"は「反+リバース+可能」を表し、「不可逆の」、「元に戻せない」という形容詞なのである。
ミクロ的な視点では「全てを破壊する」時ではあるが、マクロ的にその事象を覗いた場合、時は「全てを癒す」ことになるのだ。(ここでは、時が全てを解決する。という考え方より高次元な観点で考えています。)
ですから、人類が感じる悲喜など、時と言う存在の前では、全くもって取るにたらない瑣末な物事なのだよ。
そして考えなければならないのは、レイプされる女性の名前がアレックスであること。
そして、「2001年宇宙の旅」の「究極のトリップ」版のポスターとベッドと赤ん坊。
ここから、この映画がスタンリー・キューブリックの影響下にあることが見て取れ、アレックスという名前は「時計じかけのオレンジ」のアレックスから取られていることは容易に想像できる。
また、この映画「アレックス」ではベートーベンやマーラーの交響曲が使われ、キューブリックへのオマージュ的なカットがいくつか登場することも見逃せない。
そう考えるとこの映画の主題の幾つかが見えてくるのではないだろうか。
その主題のひとつは、キューブリック映画の主題のひとつでもある「本能から逃れられない人類の悲哀」なのである。
例えば「2001年宇宙の旅」は勿論「超人」の誕生を描いているのであるが、「食欲」から脱却できない人類を描き、「時計じかけのオレンジ」は、「暴力」という本能を描いている。
そしてこの「アレックス」は「暴力とセックス」という人類の本能を描いているのである。
そこで、興味深いのは、地下鉄の中でのセックス談義である。勿論この映画の全編はセックスにみちているのだが。
特にその地下鉄内の会話でアレックスは、「相手をエクスタシーに導くのは、相手のことを考えるのではなく、自らの欲望だけを考え没頭することだ」と元恋人ピエールに語る。
ということは、自らの欲望に突っ走っているテニアの暴力的なレイプにより、アレックスはエクスタシーを感じていた。という解釈も出来るのだ。
勿論反発はあると思いますが、冷静に考えてみて、脚本がそうなっている以上、こういった解釈もあることを監督は望んでいるはずです。
更に、復讐にはやるマルキュスは、あっさり腕を折られ、マルキュスの復讐を諌めていたピエールが結果的にアレックスの仇を取る、という構図は、暴力とセックスとの、エクスタシーと死との違いはありますが、アレックスが語っていた、「相手をエクスタシー(死)に導くのは、相手のことを考えるのではなく、自らの欲望だけを考え没頭することだ」を体現しているのに他なりません。
このモラルの人ピエールの豹変振りが、「2001年宇宙の旅」的な「超人」の誕生をも表しているのでしょう。
そして、冒頭の裸のじいさん達の視点は勿論、神の或いは神の使い的な視点を持ってますね。
シェークスピアかなんかの、神や悪魔が冒頭に舞台で少し語り、なんだか下界が騒がしいようだ、という感じで人間達の物語に入っていくような感じですよね。
さて、細かい話になりますが、脚本がよく出来てますね。この映画。
我々は、時系列的に結果から伏線を見ていく訳ですが、全てのシークエンスがレイプに繋がっていますね。
地下鉄のセックス談義や、恋人達のベッドでの会話、最近読んでいる本の内容、目覚める寸前に見た夢・・・・
キャスト的には、やっぱモニカ・ベルッチ頑張りましたね。
ヴァンサン・カッセルはダメな人間を好演してます。
なんと言っても、美味しいのはアルベール・デュポンテルでしょう。冒頭の消火器のシークエンスは映画史に残る強烈な印象を与えています。
撮影は16ミリで撮ったらしいですが、ごまかしやすいスタイルでした。
1シーン1カット(勿論ヒッチコック的に誤魔化しつつ数カット使ってますがね。)の形式はやっぱ面白いですね。相米慎二の映画なんかを見ると、ホント編集って本当に必要あるのかな、ごまかしじゃないのかって思っちゃいますよね。
この映画のもうひとつのそして最大のテーマは「希望」でしょうね。
いやあ、本当に良い映画を観たね。
「アレックス」
"IRREVERSIBLE"
2002年/フランス映画/シネマスコープ/ドルビーSRD/上映時間:98分/日本語字幕:松浦美奈/提供:コムストック、レントラックジャパン/配給:コムストック
監督・脚本・撮影・編集:ギャスパー・ノエ
出演:モニカ・ベルッチ、ヴァンサン・カッセル、アルバート・デュポンテル、ジョー・プレスティア、フィリップ・ナオン
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